「Coming Soon!」 戦略と「Today!」 戦略
「iPod nano」と「W-ZERO3」といえば、間違いなく今年大きな話題を呼んだデジタル機器として挙げることができると思います。
これら二つの製品に関心を持つ層は比較的共通していると思いますが、それぞれのマーケティング戦略はまったく異なるものだったという印象があります。
製品を顧客の手元に届けるまでのマーケティング戦略も、製品やサービスの「使用感」の一部として重要な役割を果たすと思い、今日は両者の戦略の比較をテーマに取り上げます。
○ 「Coming Soon!」 戦略の W-ZERO3
まずごく最近のトピックである W-ZERO3 について、そのマーケティング戦略の特徴を「Coming Soon 戦略」と名付けてみることにします。
というのも W-ZERO3 が発表されたのは 2005/10/20、発売が開始されたのが 2005/12/14 ということで、発表時点では製品がまだ市場に出回っていない状態、つまり「Coming Soon」だったわけです。
2005/12/14
“W-ZERO3”発売でまたも行列!! 最低気温0.6度のなか徹夜組も
実際発売開始となったときには上のような熱狂振りが見られたようですが、それから少し経って今あちこちで耳にするのは以下のような声です。
2005/12/22
[N] スタパ齋藤「W-ZERO3」の購入意欲減退
物欲全快の時は、何かと理由を付けるんですよね。これがこうだから必要、という風に。それが全く手に入らないとなると、逆に自分には必要ではないという理由をつけてしまう。
人気の高まりに対して供給が十分に追いつかないために、購入しようと色々な努力をしたにも関わらず運悪く手にすることができず、購入意欲が一気に盛り上がって、一気に冷めていくという体験をした人が以下のエントリにトラックバックしている人の中にも見受けられます。
2005/12/22
スタパブログ: W-ZERO3予約にアブレたよーん
急激に盛り上がった衝動が、ほんの小さなブレーキによって完全に消え失せることって、よくある。
よく「じらし戦法」などと言って、購入したい気持ちが高まるまで「おあずけ」を食わせるマーケティング戦略があります。今回意図的にそれを行ったようには思えないのですが、結果的に今回そのように製品の「希少性」によってより意欲が高まったという人もいれば、その逆という人も多いのではないかと思います。
○ 「Today!」 戦略の iPod nano
一方の iPod nano の戦略については以前読んでなるほどと思っていた記事があります。
W-ZERO3 の方に「Coming Soon 戦略」という名前を付けたのは、この「Today 戦略」との対比のためでした。
2005/09/11
デジモノに埋もれる日々: iPodの 「 today ! 」 戦略にみる、購買意欲のピーク到達過程の変遷
W-ZERO3 の購入を検討していた人たちの購入意欲の急上昇と急降下が起きたその時代的背景は、このエントリに書かれている内容からはっきりと理解することができます。
まず Apple が徹底している「Today! 戦略」とは。
Appleはジョブズ氏の製品発表のスピーチを聞かせたあと、必ずと言ってよいほど、
「この魅力的な新製品は、『今日』から手に入る」
(だから、このイベントの帰りにでも買っていってくれ)
という類のメッセージを出します。iPodは延々とこの「today」戦略を尊重し、実際に新製品の発売を開始できるその日まで、新製品についての情報を徹底的に隠すやり方を貫いてきました。そして今回のiPod nanoでもその方法は的中しています。新製品に期待を抱いた人々は、熱狂冷めやらぬ思いで新製品に群がり、店頭で、ネット注文で、次々とiPod nanoを購入していったのです。
そしてなぜ製品が発売できる当日まで情報を隠すのかといえば、現在のネットの発達した世界では購入意欲が「知ったその日」にピークに達してしまうからです。
こうしたデジモノ商品に真っ先に飛び付く層は、いまや強力な情報網をその手中に収めています。そう、パソコンとインターネットです。自ら進んで情報を欲しがり、実際にネットを使ってありとあらゆる情報を吸収する彼らは、商品の情報を理解するために 長い時間を必要としません。すなわち、彼らにとっては、商品の第一報を知ったその日が、盛り上がりのピークである
しかしこのピークに上手く合わせられなかった場合どのような問題が起きるかは以下に指摘されている通りです。
消費者に対して、あるモノを「欲しい」と思わせるには、時間を掛けて情報を植え付けることが必要となります。まず魅力を伝えないことには始まりません。
その一方で、情報を知ることで高まってきた「購買意欲」は、今度は時間を掛けてゆっくりと減衰していきます。そう、冷静になって考える時間を与えることで、消費者は一時の興奮を忘れていき、しまいには消費に対する興味も失っていくのです。
このエントリはこの iPod の戦略といくつかの国産家電メーカーが新製品発売の際に採った手法とを比較しながらこのように締めくくっています。
もし情報ツールの急激な進化によって、その「熱狂」が昔とは比べ物にならないほど急激な立ち上がりを見せ、その後はただ冷めを待つだけのサイクルを持つのだとしたら、昔ながらの「1~2ヶ月前に製品発表を行う」手法は、実はとても非効率なのかもしれません。
○ ソフトウェアや Web サービスの場合は?
今回「W-ZERO3」と「iPod nano」について取り上げたのはそのマーケティング戦略の良し悪しを議論するためではありません。ネットが発達した世の中で人の「買いたい、使いたい」という意欲が一気に盛り上がり、一気に冷める、ということを実例をもとに説明したかったというのが真意です。
さて、上に挙げた両製品のように製造(複製)コストがけして低くなく、在庫という頭の痛い問題もあり、製造個数に比例してある程度時間もかかるハードウェアの場合、その供給体制をコントロールすることは容易でないことは想像に難くありません。
それではソフトウェアや Web サービスの場合は?と考えると、「Today!」という感覚はハードウェアの場合よりもなお一層強いものと思われます。
ネットで情報を収集しながら、興味を惹かれたソフトウェアやサービスがあったら、そこにソフトウェアのダウンロードやサービスのユーザー登録へと導かれるハイパーリンクが置かれていることを期待するのは当然の心理に違いありません。
とはいえソフトウェアのダウンロードや Web サービスの場合にも、一気にアクセスが集中してしまうとサーバーが応答しなくなったりと、ハードウェア製品が抱えるのと同じ需要予測の難しさなどが存在し、かつサービスを提供するためのコストも大きいというのも事実ですが、少なくとも「Coming Soon!」という「じらし方」は止めた方がよいのでは? 個人的にはそんな教訓を今回の件から得ました。
Posted by Tomoy at 02:52 午後 その他 | Permalink
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サイボウズの安田さんが、ブログでこんな記事を書いていらっしゃいました: 「Com 続きを読む
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コメント
FeedPathは思いっきり、Comming soon戦略だと思いますが…
投稿: なび | 2005/12/26 23:59:25
あとW-ZERO3は機種変10ヶ月縛りがある以上、他の新機種の発売前に発表しなきゃならなかったのが大きかったのでは。
じらすというよりそうせざるを得なかった側面のほうが大きいと思います。
投稿: なび | 2005/12/27 0:07:32
Today / Coming Soon戦略の対比、とても興味深く読ませていただきました。
潜在顧客の期待度と満足を切り口に分析なさっていますが、忘れてならないのは競合の存在です。
Coming Soon戦略は、競合他社の製品の購入を顧客に思いとどまらせる(それも、モノがない状態で、)というところに旨みがあります。これが成立するには、ある程度競争優位がある状態でないとなりませんが。
エントリの主旨である、「すぐに興味が失われてしまう」という点についても、Coming Soon戦略で旨みを享受できる程度に競争優位が築かれているのであれば、顧客の興味をそのジャンルの製品に集めておきながら、競合に対抗できる程度のレベルの製品でお茶を濁してしまい、製品ジャンルをつぶしてしまう、ということも競合対策として有効かもしれません。
だから、必ずしもComing Soon戦略が下策だということにはならないと思います。
Coming Soon戦略があまり効果的ではないという御説ですが、それは、ある程度の競合優位を築いたプレーヤーが、ご指摘の市場に存在しない、ということを意味するのではないか、と思うのです。
もちろん、参入障壁が低いネットアプリ市場では、Coming Soon戦略が有効に使えるほどの企業が育つのかという点は疑問がありますが。
結論としては、Coming Soon戦略というのは、強者のみが使える(弱者が使ってはならない)戦略だということだと思います。
投稿: nok | 2005/12/27 22:54:14
コメント、トラックバックをいただいた皆様、ありがとうございました。
ソフトウェアや Web サービスの場合の詳細なケーススタディ、戦略を採る企業の立場の違いによってもその効果が異なってくること、など今回のテーマをさらに広い視野で考えるヒントをいただきました。
自社の戦略を評価するものさしとしてさらに考えたいと思います。
投稿: tomoy | 2005/12/28 11:36:31